今日の画像は、初夏の訪れを告げる伝統行事、色とりどりの装束や大小の鈴をまとった約70頭の馬が岩手県滝沢市から盛岡市までの約13キロを練り歩く『チャグチャグ馬コ』。そして、珍しい黄色の『ペチコートスイセン』と『ツルニチソウ』です。本当、ペチコートスイセンを見たのは何年ぶりかのことです。右下をクリックすると、大きな画が見られます。
★★★1990年代半ば、イギリスの小さな自動車会社が売りに出された。『ロールス・ロイス』と『ベントレー』を作っていたものの、生産効率が悪く収益性の芳しくない、『ロールス・ロイス・モーターズ』である。
当時、自社ブランドでは獲得出来ない超富裕層をカバーする力のあるロールス・ロイスブランドを欲しがっていたのはVWだけではなかった。BMWも参入してきて、2社間の激しい争いとなった。結果、最高額で入札したVWのものとなった。
しかし、ここから面白いことが起こる。ロールス・ロイス社はもともと車だけでなく航空機エンジンも製造する会社だったが、もとのロールス・ロイス社は航空機エンジンメーカーとして存続し、自動車製造部門はヴィカースという会社に売られたのである。ちなみに、現在ロールス・ロイス社の航空機用ジェットエンジンは全日空のボーイング787にも採用され、世界の三大エンジンメーカーのひとつとなっている。
VWは、ロールス・ロイス社ではなく、ヴィカース社から『ロールス・ロイス・モーターズ』という自動車製造会社を買った格好だが、実はロールス・ロイスの商標権は航空機エンジンメーカーのロールス・ロイス社が留保していた。その事実が判明するやBMWはすかさずロールス・ロイス社と交渉し、自動車分野のロールス・ロイスの商標権を獲得してしまう。
このため『ロールス・ロイス・モーターズ』を買収したVWはロールス・ロイス社の製造・販売が出来なくなるという事態に陥った。そこで、ロールス・ロイス・モーターズが所有していた『ベントレーブランド』の車のみを製造することになったのである。
ベントレーは、もともとウォルター・オーウェン・ベントレーが1919年に設立した自動車メーカーで、1923年から1930年の間に5回もル・マン24時間レースで優勝するほどの高性能車だった。しかし世界恐慌のあおりを受けたベントレーは経営危機に陥り、1931年にロールス・ロイスに吸収合併されてしまう。戦後は、基本的にロールス・ロイスと同じ車をバッジとグリルが異なる程度の変更で売られていた。ロールス・ロイス級のステータスは欲しいものの、これ見よがしなロールス・ロイスには乗りたくないという一部の層に向けて存在していた『陰の』ブランドだった。
VWはロールス・ロイスブランドを獲得することは出来なかったが、VWフェートンの車台を使った『お買い得』ベントレー車で大成功を収めることが出来た。BMWはロールス・ロイス向上を新たに立ち上げたが、BMWのロールス・ロイスが年間4,000台程度の販売に留まるのに対し、ベントレーは1万台以上を売り上げている。今や、数の上では以前はマイナーだったベントレーの方がメジャーブランドになっているのだ。
ロールス・ロイスは、そのブランドイメージの強さ故にマーケティングの縦軸にも横軸にもポジショニングを拡大しにくいが、ベントレーは比較的自由度が高く、結果としてロールス・ロイスより広いマーケットを獲得出来た訳である。2016年にはアウディQ7のプラットフォームを土台としたベントレー初のSUV『ベンテイガ』を発売。これも大ヒットとなっている。ベントレーを得ることで、VWは2,000万円以上の価格帯のマーケットで大きなシェアを得ることに成功したのである。
一方のBMWは、台数こそ少ないものの、ロールス・ロイスで3,000万円超という更に上のマーケットを獲得することになった。(参考: 山崎明著『マツダがBMWを超える日』)
■■昔、昔、その昔、人気テレビ番組ロッテ歌のアルバムの司会者』として一世を風靡し、日本歌謡界の発展に尽くした『司会者・玉置宏』。その玉置さんが、遺作として自分の辿った歌謡界を綴っている。昭和の昔が懐かしい。川崎市生まれ、1934年1月5日 - 2010年2月11日、享年75歳。
★★★『玉置宏の「昔の話で、ございます」㉓ テレビ歌番で「歌謡曲黄金時代」到来』 昭和33年(1958)に、TBSだけのネット局なしで始まった『ロッテ歌のアルバム』は、昭和30年代のテレビの急速な普及に足並みを揃えるように人気番組の仲間入りを果たし、放送を開始して3年後の昭和36年には、ついに念願の全国ネットになった。この昭和36年には、新たに、二つの大きなミュージックバラエティーのテレビ番組も生まれた。
一つが4月からNHKで始まった『夢で逢いましょう』。これは歌と踊りとコントで構成されたバラエティーで、ホストがファッションデザイナーの中嶋弘子さん、出演者は三木のり平、黒柳徹子、渥美清、坂本スミ子、田辺靖男、E・H・エリックなどの芸達者の面々、さらに永六輔・中村八大のコンビが今月のコーナーを担当していた。この歌のコーナーからは大ヒット曲、坂本九ちゃんの『上を向いて歩こう』や、梓みちよさんの『こんにちは赤ちゃん』なども生まれた。
もう一つが、6月から日本テレビ系列で始まった『シャボン玉ホリデー』。これは当時大人気だった双子姉妹ザ・ピーナッツとクレージーキャッツをレギュラーに、毎回ゲストを迎えるコメディータッチのバラエティーだった。青島幸男さんは脚本を書きながら出演もしていたが、ほかに脚本担当として前田武彦さん、塚田茂さんなどが参加していた。
これまでの歌謡番組のように、ただ歌手が歌うだけでなく、コントやお芝居も絡めたショー形式の新しいスタイルが、テレビ前のお茶の間で大いに受けたのだ。
『シャボン玉・・・』の塚田さんは、昔から三橋美智也さんの舞台なども構成演出されている方だが、塚田茂さんが演出する大劇場の歌謡ショーなどの舞台では、この手法はすでに行われているものだった。つまり、歌手にお芝居など、必ず何かのアトラクションもさせることで、客を存分に愉しませていたのである。
実は私も、塚田さんには同じ昭和36年の日本劇場での初めての司会、『三橋美智也・お正月公演』では、1週間お世話になった。この公演は塚田さんの構成演出で、『佐渡おけさ』をテーマにしたお芝居もあり、三橋さんを中心に、特別出演が三木のり平さんと東宝の女優の北あけみさん、それに初代の脱線トリオ、由利徹、八波むと志、南利明の3人が絡むというコメディーもの。
三橋さんが修行中の板前、老板前がのり平さん、女将が八波さんで、のり平さんのすっとぼけたキャラクターと、八波さんのおかしげな女装だけでもう十分に笑いが取れる芝居なのだが、司会の及川洋さんも軽演劇出身というので、一役あった。ところがこれが間抜けな与太郎のちょい役。そこでカチン!ときた及川さんは、『天下の三橋美智也の司会のこの俺に、こんなちゃちな役を振るとは何事だ!』と台本ぶん投げて降りちゃった。
公演までもう20日を切っていたし、暮れも迫る忙しい時期だったので、日劇クラスの空いている司会者がいるはずもない。それで、急遽私に話しが来た。
私も『ロッテ・・・』とのスポンサー契約があるから、それまで東京での商業劇場には積極的には出ていなかったが、三橋さんの頼みだし、憧れの日劇だから、何とかしようと探りを入れてみると、番組に支障をきたさないのならOKという返事が出た。スケジュール的にも『ロッテ・・・』の生の時間を除けば、後は何とかなりそうなのでそのまま、塚田さんの演出指導のもと、暮れの稽古に入ったのだ。
役者経験のない私に、早速獅子舞の馬の尻の役が回って来た。それも頭は三橋さんで、渡板をよろよろ歩く役。渡板は幅が2mくらいはあったが、被りものをしているからよく見えない。下のオケの人達も気が気ではなかったと述懐している。私も、この獅子舞の方に神経をすり減らしたお陰で、日劇の初司会という重圧や緊張を感じる暇がなかったと言うのが本音だった。さすが日劇の舞台は魅力的であり、華やかなものだった。(参考: 玉置宏著『昔の話で、ございます』)
★★<なぜいま韓国へ進出? “売上好調”『アイリスオーヤマ』> 韓国の大手通販サイトで『アイリスオーヤマ』と韓国語で入力すると、ずらっと出てくる家電の数々。Eコマース(電子商取引)市場が約11兆円を超える韓国で着々と存在感を増す、仙台市の生活用品大手『 アイリスオーヤマ』のオリジナル家電だ。
他の大手家電メーカーの早期退職者を採用して独自の製品開発を進めることで注目を集めており、これまでに『ハンズフリー型の卓上ドライヤー』や『IH調理器としても使える分離型の炊飯器』などのアイデア家電を生み出してきた。18年12月期のグループ全体売上高は家電販売の好調などを背景に4750億円(前年比13%増)と過去最高を記録した。そのアイリスオーヤマが19年3月に完成させたのが韓国初の生産拠点『仁川(インチョン)工場』だ。
大山健太郎代表取締役会長は現地で開かれた竣工式で『これからは仁川工場で、収納用品だけでなく家電製品も内製化を図っていく。韓国市場の中で今後もEコマースを中心に積極的に展開し、韓国の生活者の皆様にお役に立てるよう、そして韓国経済の発展に寄与できるよう、まい進する』とコメントし、仁川工場の意義を強調した。
◇日韓関係は悪化の一途…なぜこのタイミング?
総投資額70億円をかけて果敢に韓国に本格進出したアイリスオーヤマだが、奇しくも現在は日韓関係が“どん底”ともいえる時期だ。なぜこのタイミングだったのだろうか?と疑問に感じる部分もある。
『残念ながら私たちは現在、日韓の難しい問題(日韓関係)について強い懸念を抱いている。適切な措置が取られると信じている』。仁川工場の竣工式が行われた6日後、文在寅大統領と外国企業関係者との懇談会の場で、在韓国の日系企業などでつくるSJC・ソウルジャパンクラブの森山朋之理事長(韓国三井物産社長)はこう述べた。
いわゆる徴用工を巡る訴訟で日本企業に賠償を命じる判決が出され、日韓関係が悪化の一途をたどる中、日本の経済界が直接、文大統領に対応を求めた形だ。差し押さえられた日本企業の資産が現金化されれば日本政府による対抗措置も現実味を帯びてくる。そうなれば日韓の経済に及ぼす影響は甚大であろう。訴訟の当事者ではない日本企業の関係者でさえも「韓国でビジネスを行う企業としては無視できない問題だ」と警戒感を露わにする。このタイミングでの工場進出の狙いを聞くため「仁川工場」を訪ねた。
◇仁川工場 初年度売上目標は『50億円』
ソウルから車で1時間ほどの距離にある『仁川経済特区』。韓国政府が2003年海外企業を誘致するために設けた経済特区で、税制の優遇などが受けられ、現在、日本企業18社を含む海外企業65社が進出している。総面積約4万4600平方メートルの仁川工場を訪ねると『ロボットアーム』が休みなくプラスチックの収納ボックスを生産していた。アイリスオーヤマが最新設備を導入し、推進する生産ラインの自動化だ。現在、工場はまだフル稼働には至っていないが、今年中にはサーキュレーター(送風機)などの家電製品の生産が開始されるほか、布団乾燥機、空気清浄器などの家電製品も順次、生産が始まる予定だ。
現地法人『アイリスコリア』のソン・スンゴン社長は『日本での売れ筋家電を韓国で紹介してアイリスオーヤマの商品を韓国の消費者に選んでもらえるようにしたい。売上目標は初年度は約50億、2021年までには約100億円。まだ小さい工場だが約200億円まではいきたい』と韓国市場での販売拡大に意気込む。
◇米中貿易戦争に伴うリスク分散…さらに韓国市場にチャンスも
アイリスオーヤマは仁川工場設置の理由の1つに『リスク分散』をあげる。激しさを増すアメリカと中国の“貿易戦争”の先行きは不透明だ。アイリスオーヤマでは中国工場で生産された製品の一部をアメリカに輸出していたが、対米輸出品の追加関税を考慮し生産の一部を中国から仁川工場に移管。仁川工場からもアメリカに輸出する計画だ。韓国からアメリカへの輸出は米韓自由貿易協定(FTA)によって関税がかからないためだ。
さらに22年にはグループ全体で現在の2倍にあたる『売上高1兆円』という目標を掲げているアイリスオーヤマにとって、海外の売上比率を上げることは欠かせない。韓国ではPM2.5による大気汚染が深刻な問題になっているため、仁川工場で生産される空気清浄器は家庭やオフィスに必須ともいえる家電で、かなりの需要が見込めるだろう。さらに布団乾燥機は実は韓国ではあまり知られていない家電だ。PM2.5の影響を心配して布団を屋外に干すことがほとんどないため、機能が認知されれば売上拡大のチャンスがあるだろう。韓国市場には魅力があるのだ。
◇悪化する日韓関係…政治と経済は『別』
その上で日韓関係の悪化については、あくまでも政治と経済は『別』と強調する。ソン社長は『訪日韓国人は年間700万人いて韓国国民でもアイリスオーヤマのことを知っている人はたくさんいる。私たちの商品の優れた機能を知ればもっと多くの人が購入してくれると思う』と期待感を寄せる。消費者のニーズに合った優れた商品を生産すれば日韓関係の悪化が及ぼす影響は小さいとの認識だ。
確かに韓国メディアもアイリスオーヤマの韓国進出に対して『IT分野、ビジネス貿易、マーケティング分野の人材採用増加が期待される』(日刊京畿)と歓迎ムードだ。韓国に進出した日本企業は売り上げや利益を伸ばし、韓国人は新たな雇用を得るという、双方にとってウィンウィンの関係が出来るのならば理想的だ。
しかし、元徴用工を巡る訴訟問題で韓国政府が何も対応せず日本政府が対抗措置に踏み切れば、日本製品の不買運動などが起きることもあり得る。“アイデア家電”で急成長を遂げるアイリスオーヤマが韓国市場に新たな風を巻き起こすためにも韓国政府には適切な対応が求められている。
しっかし、『アイリスオーヤマ』の快進撃は見事だねえ。大手電機メーカーの隙間を狙うような商品開発と物流。販売網は、ホームセンター経由が中心で、今は一般家電店にも進出。元々は東大阪が創業の地だが、火災により仙台で再出発したものだ。平成の家電不況でのリストラに対応し、家電大手を希望退職した技術者を再雇用。大阪に研究所を設け、開発もスピード感を増す対応力を示す。特にLED電球に早くから目をつけ進出したのは慧眼であろう。J1仙台の胸マークのスポンサーにもなっており、仙台愛たっぷりの企業だ。今後が楽しみだ。
★★<炎上する『老後2000万円』報告書問題、最悪なのは麻生大臣だ>
◇『老後報告書』の炎上は不思議でならない
通称『老後報告書』、金融審議会市場ワーキンググループによる『高齢社会における資産形成・管理』(2019年6月3日付)が、いわゆる『炎上』状態にある。
これは、どうしたことか。筆者は、当初、この炎上を不思議な思いで眺めていた。この報告書は、老後の資産形成と管理について国民個人の立場から書かれたもの。関係者が多いためか、率直に言って内容『ゆるい』し、不徹底だと思ったのだが、筆者の心配はこの報告書が高齢者向けの金融商品・サービスのあざといマーケティングに利用されるのではないかという可能性にあった。
ところが、現在の議論は、『公的年金は破綻しているのではないか?』『国民に2000万円貯めろという政府の言いぐさは無責任だ』といった妙な方向に向いている。
報告書で問題の『約2000万円が必要』に至る箇所を見ると、『高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると』、毎月5万円程度を保有資産から取り崩しており、これを基に『収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取り崩しが必要となる』と試算してみたにすぎない。 事実に基づく単なる計算であって、これに文句を言うこと自体が奇妙だ。
◇そもそも野党側の追及がピント外れだった
また、年金が『100年安心』だというのは、一定の経済前提の下での公的年金財政の持続性のことであり、個々の高齢家計に資産の備えが必要ないことを訴える表現ではない。『100年安心だと言っていたのに、今になって2000万円不足だから貯めておけというのは無責任だ』とか、まして『年金の破綻をまず謝れ』と言うに至っては、ピントの外れた言いがかりに近い。
実際の家計は『平均的な姿』の家計以外に、高所得・高支出の家計もあれば、低所得・低支出の家計もあるし、現役時代と老後で支出をどう配分するのかは、個々の家計の意思決定次第だ。『2000万円』という数字は印象的だが、報告書は『平均的な姿』を目指せと強制しているわけではないし、まして公的年金が破綻すると言っているわけでもない。公的年金の給付が『マクロ経済・スライド方式』に基づいて今後徐々に削られることは、もともと分かっていた話だ。野党側の追及の初動は全くピント外れだったのだ。
政治的な駆け引きがあるので、無理な注文かもしれないが、『2000万円!』と絶叫するのは愚かに聞こえるだけなので、できたら即刻やめてほしい。本来、本件は参議院選挙の争点になり得るようなテーマではない。
◇麻生大臣が上司ではかわいそう
ところが、追及の矢面に立った人物が、麻生太郎大臣だったのがまずかった。彼は、何と『表現が不適切だった』と報告書をバッサリと切って捨てた。『2000万円は、単に平均値に基づく高齢家計の試算を示しただけで、何の問題もない。報告書を丁寧に読んでください』とでも説明しておけばよかったところを、早々に表現の非を認めた。
麻生氏は、年金が話題になるとまずいと思い、この問題を早く終わらせたかったから、『表現が不適切』で済まそうとしたのだろう。しかし、この手の逃げ腰は、追及したくなる心理の火に対して大いに油を注ぐ効果がある。麻生氏の初期対応の誤りで、この問題は『炎上』に至ったと筆者は思っている。
それにしても、委員の意見をまとめて表現を調整して報告書をまとめた事務方の担当者は、上司筋である大臣に『表現が不適切』と言われては立つ瀬がない。こんな上司の下で働くのではたまらないだろうと、ご同情申し上げる。しかし、結果的には、部下をもう少し大切に思う気持ちを持って丁寧に答弁していれば、この心ない上司の側でも炎上に巻き込まれずに済んだのだろう。つまりは、不心得に対して罰が当たったような展開であり、世の中は案外バランスが取れている。
なお、答弁としては、現役世代の手取り収入額に対する受給開始時の年金額の割合を示す『所得代替率50%』に言及した安倍晋三首相の発言も危ない。所得代替率は、これまで分子が名目額、分母が可処分所得といういびつな計算で示されていたことが、国会で指摘され、塩崎恭久厚労大臣(当時)が不適切な計算であったことを認めている。
分子・分母を共に可処分所得で計算すると数字は相当に低下するはずなので、『所得代替率50%』を基準とする説明に首相がこだわると、『年金はやっぱり安心ではない』という印象を国民に与える可能性がある。
◇麻生氏の無礼に次ぐ無礼
後の質疑で話題の報告書の全文を読み込んでいなかったことが判明した麻生大臣だが、『表現が不適切』だと、部下ばかりか、報告書を了承した審議会の委員たちにまで恥をかかせた。そして、彼は、さらにこの報告書を正式なものとして受け取らないと言い出した。そもそも、大臣は、審議会の有識者とされる人々に対して、専門的識見に基づく意見の提出を依頼している立場だ。その報告書を、都合が悪いから『受け取らない』と言う麻生氏は一体どこまで失礼にできた人物なのか。
しかし、この度重なる失礼も、罰当たりのブーメランを加速する結果に終わるのではないか。受け取りを拒否したとしても、報告書の計算自体が変わるわけではない。また、報告書が指摘した老後に向けた資産形成等が必要なくなるわけでもない。まして、麻生氏に、報告書に代わる老後の備えの対案があるようには見受けられない。
報告書の各所に注目が集まる一方で、麻生大臣は、事実の説明とともに『それで、どうするのですか?』と対案を求められることになるだろう。ここでも、『単なる表現の問題』で逃げ切ろうとする姿勢が見えるので、追及する側も、見物する側も、麻生氏が追い込まれることに対して『張り合い』を覚える構造になっている。元々どうということのない報告書がこれだけ騒がれる問題となるのだから、組織のトップが不出来であることが、いかに不幸なことなのかが分かる。
◇『平均値』で老後を語るな
最後に一言補足しておく。報告書が示した試算は、高齢家計の『平均』に基づくものだが、個々の家計が多様である中で、平均に基づく計算だけを示すのはやめた方がいい。ダメなファイナンシャルプランナーが書く本や原稿は、平均で老後のお金の問題を語る傾向があるが、これと同類の不備だ。平均値に基づく試算に対して、低所得・低支出な人は「こんなに必要なのか」と不安になるし、高所得・高支出な人も『こんなもので足りるのか』と不安になる。平均は誰も安心させない。必要なのは、個人が自分の必要貯蓄額を計算できる「方法」を教えることだ。(参考: 経済評論家 山崎 元筆)