かつて、私も文庫本を買って、読みました山口百恵の『蒼い時』。発売総数300万部を越える大ベストセラーに。内容は、てっきり山口百恵談、ゴーストライター筆、の作品だとばかり思っていました。が、先般TVで、この本は百恵ちゃん本人が書いたものと報道。驚きましたねぇ。さらにひょっと手にいれた中古本に、その実像が生々しく。以下。
山口百恵が三浦友和との婚約を発表し、芸能界から引退した時、『婚約おめでとう』というお祝いのカードを贈った、まったく無名の女性記者がいました。アナウンサーからフリーランスの取材記者となった、まだ20代の女性でした。
この女性は記者のかたわら、歌手の金子由香利のプロモートをしていて、由香利の歌が好きな百恵に、コンサートのプログラムに印刷する推薦文を書いてもらったことがあります。百恵が自分で書いた推薦文は、文章がしっかりしている上情感がこもっていて、しみじみと読ませるものでした。いい文章が書ける人だなあ、と女性記者は感心しました。でも、百恵ちゃんとのつき合いはその時と、取材を含めて2度だけ。向こうは有名、こっちは無名。どうぜ覚えていてくれるはずはない、と思いながら、彼女はお祝いカードに書き添えました。
『私は近く女性記者を辞め、いよいよ由香利さんのプロダクションを作ります。記者をしているうちに、一度何かあなたに書いてほしいと思っていたんですけれど・・・』。思いかけず、折り返し手紙が来ました。『・・・あたしには今、自伝を出版しないか、という申し込みが40件を越えています。でも、みんな申し合わせたように、あたしには書かなくていい、と言うのです。そんな本を出したくありません。一度あなたにお目にかかって、お話出来ませんか』。記者は仰天しました。活字の世界から足を洗おうとしているところへ、本を作る話が飛び込んで来たのです。それも天下のアイドル・スターから。
百恵ちゃんは、歌手生活の総決算に自分が歩んできた道を本にしてみたい、と思っていました。しかし、誰も、書きなさい、とは言ってくれません。出版したい人間はたくさんいるが、どうせ芸能人、書けるわけはない、と、ゴーストライターを用意しての申し込みばかりでした。そのことが彼女にはくちおしかった。本を作る時には、芸能人としてではなく、ペンを持つ人間とし扱ってほしいと思います。ついに、40件を越える申し込みを断ってしまうのです。そこへ来たのが女性記者からのカードでした。『あなたに書いてほしい』と記してあります。百恵ちゃんはこの一行に弾かれるように立ち上がったのでした。
二人は会って、いろいろ話をしました。『歌手としてのあたしは、たくさんの人の演出に乗っかって、ただ踊らされていただけ。でも、本を書くのは自分一人の作業ですね。だからやってみたいんです』、百恵は言いました。『でも、きれいごとは駄目よ。本当のことだけを書きなさい』、と女性記者は応じます。百恵は、うん、うん、とうなずいて。『白を黒と書いていいか、という相談には絶対乗りませんよ。じゃ、すぐ始めて下さい。出版社は私が見つけます』。
二人で相談して章だてを作り、百恵は書き始めます。東京にいる時は女性記者の事務所の片隅で、地方公演に出ると楽屋で。記者は出来てくる原稿を記読み、厳しい注文を付けました。『あなた、女でしょ。だったら生理があるわね。初潮がいつで、その時どんなことを感じたのかが書いてない。きれいごとは駄目、と言ったはずよ』。『あなた処女なの?違うなら、初体験が何時で、誰とだったか、どうしても書かなければいけません』。そうやって8ヵ月かかり、400枚の原稿が出来ました。女性記者は改めてそれをずたずたに削り、280枚に縮めました。
『あなたの本なんだから、書くだけじゃなくて、本作りの工程すべてに参加しなさい』。言われて百恵は、装丁の相談や紙質選びにも加わりました。最後のゲラをていねいにチェックしたのは、公園が行われていた網走の楽屋でした。
『3万部くらい売れるといいわね』。『蒼い時』と題された本が発売されると、二人は胸をときめかせながら話し合いました。それから3年ほどの間に、単行本と文庫本を合わせて、300万部が売れました。爆発的なベストセラーの出現です。当時の女性記者の名は『浅間里江子』。後に女性誌『Free』の編集長になります。その世界では山口百恵くらい有名な人ではあります。
少し前、NHK・BSで、山口百恵特集の歌番を見て、この本が百恵直筆の書とは知っていましたが、まさか、その裏にこのような素晴らしい話が隠されている、思いも寄らぬことでした。たまたま、古本屋の店頭に並んでいた上前淳一郎著『読むクスリ』文庫本を手にして、知りました。なんとこの文庫本、初刊の第一号。このシリーズは、全部で34巻ありますが、その最初の本に収録された、とても感動的な百恵ちゃんの隠された話です。 (参考: 上前淳一郎著『読むクスリ 戞(現嬖幻法
★VWの捏造疑惑、どんどん広がるねえ。一体この会社のコンプライアンスはどうなっていたのか、不思議でたまりません。しかも当初のディーゼルエンジンだけでなく、ガソリンエンジンも捏造が確認されて。10月の国内でのVWの販売台数は、前年比半減と。まあ当たり前といえば当たり前。VWのバッジをつけた車に乗っているのが恥ずかしい情景になりました。勿論アウディやポルシェも同罪、同様ですが。